2011年4月アーカイブ

「自動車の場合、エンジンは寒冷地、たとえば北海道の氷点下20度のところでも、スイッチをいれると、たちまち数百度の高温になるなど、わずかな時問で温度が激変します。

また触媒は振動に弱いのですが、自動車は長距離を高速で走り、激しく振動します。

ひどい悪路を走る場合もあります。

そのうえ、当時のガソリンにはノッキング防止のために4エチル鉛が含まれていました。

触媒は鉛にふれると性能が劣化してしまうのです。

だから、触媒を自動車のような悪条件のそろったところで使うなどということは、従来のわれわれ化学屋の考えからすれば非常識極まりないものでした」

このありえない状況を覆してできた触媒は黒煙を上げていた中古トラックの排気がきれいなものになるほど優秀な触媒でした。

「日産自動車に入社して『排ガス対策のために触媒を研究開発せよ』といわれた時は、率直にいって『そんなバカな』と思ったのが実感でした。

というのは、化学工業における触媒については、専門家の間には当然の常識というか、一種の原則のようなものがあったからです。

触媒というのは本質的に環境に極めて敏感な物質です。

たとえばメタノールやアンモニアの合成に触媒を使う場合は、一定の温度を厳密に保ち、しかも原料ガスは十分に精製するなど、触媒の機嫌をそこねないように、ちょうどハレモノにさわるような気持で反応させなければなりません。

だから触媒は化学工場のような、固定した、しかも温度や湿度などの外的条件が非常に安定したところでないと使えない、というのが、触媒専門家にとっての初歩的な常識だったのです」

しかし、この常識を覆して触媒は完成します。

この触媒があったから今の中古車トラックが白煙を上げて走るようなことがないのです。